一級建築士の学科試験で構造を勉強している中で構造設計ルートについての質問をされます。
構造設計の実務をしていると、これがありきで考えているので特に疑問を持たないということになりがちですが、構造設計者以外から見るととても馴染みにくいものになっています。
暗記で突破することもできますが、膨大な情報量を扱う一級建築士試験はできるだけ暗記量を減らせるかの勝負でもあるので、考え方の理解で済むものはできるだけそちらの方向にもっていく必要があります。
なので今回の記事では構造設計ルートができた背景について書いていきたいと思います。
今回のポイントは3つになります
①構造設計ルートは何を実現しようとしたものなのか?
②実際の被害状況と重ね合わせることが重要
③構造設計ルートありきの設計者はなってはいけない
①構造設計ルートは何を実現しようとしたものなのか?
耐震基準は、1978年の宮城県沖地震をきっかけに大きく改正され、新しい耐震基準は1981年6月1日に施行されました。その際に構造設計ルートが始まりました。
構造設計ルートは簡単に言うと審査や設計を誰でも簡単にできるようにして、社会活動を円滑に動かしていけるためのものだと考えると内容の理解が早まると思います。
構造計算の細かな中身を確認(理解)していなくても、限られた項目を確認することで耐震性能が確保されていると判断できるようになっています。※ここでいう耐震性能とは建築基準法を満足しているということであって本当の耐震性能はそんなに簡単に示せるものではないということの理解が重要になります。
②実際の被害状況と重ね合わせることが重要
示されている項目はこれまでの地震被害状況から、損傷が少なかった建物(例えば、RC造であれば壁が多い、S造であれば規模が小さいなど)と被害が大きかった建物(例えば、変形が大きい、剛性のバランスが悪いなど、脆性破壊がしやすい仕様がある)の特徴を数値化して条件化しています。
なので、これを満足していれば安全というところで思考が止まってしまっていては問題ですが、実際の被害から導き出された項目ではあるので、耐震性を考える上で重要な要素ではあるということを認識する必要はあります。
建築士試験のレベルで言えば、設計ルートで示されている項目によって安全側のことを言っているのか、危険側のことを言っているのか判断できるようになるという視点で見ると、理解が早まります。
③構造設計ルートありきの設計者になってはいけない
建築工事を着工するためには建築基準法に満足していることを審査機関に確認してもらって確認済証を発行してもらう必要があります。
設計実務を経験したことがある方には痛いほどわかることですが、着工の直前までに済証が発行されないととてもドキドキします。
その高い圧力の前では、構造設計ルートに沿って構造設計をすることが当たり前になり、思考の方向性がいつの間にか構造設計ルートに適合することが目的になり、構造設計ルートに適合する=耐震性が十分な建物という認識に変わっていくことになります。
繰り返しになりますが、法適合と十分な耐震性は完全なイコールではありません。
耐震性について深い理解があってから、この構造設計ルートに対峙すれば1つの課題として突破していくことになります。しかし、ほとんど耐震設計について知らない若手がいきなり対峙することで誤解が生まれます。こういった構造設計の背景を伝えた上でどのように構造設計ルートと付き合っていくかを示していくことが人材育成上はとても重要になってきます。
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