【構造設計】直感が置き去りにならない一貫計算との付き合い方

【構造設計】

構造計算の中で建物全体の計算を行うソフトのことを一貫計算と読んでいます。
本ブログの中でも電算との付き合い方についていくつか記事を書いてきました。

その中でも特にこの一貫計算と呼ばれる電算が担う部分が多く、名前に一貫という言葉が付いているだけあって、本当に多くのことを自動でやってくれます。

今回はそんな一貫計算がどのようなものなのかと、一貫計算との向き合い方を書いていきたいと思います。
※基本的な内容で書いていくので各社のソフトによっての差のない内容になると思いますが、実務でSS7(ユニオンシステム)を使用しているのでそれによった表現が入るかもしれません。

今回のポイントは3つになります。
①一貫計算は何をしてくれるのか?
②計算モデルと実態の関係
③直感と一貫計算を繋ぐ

①一貫計算は何をしてくれるのか?
ざっくりなイメージで言うと建物の条件さえ入力すれば、建築基準法で必要とされている検討を『ほぼ一通り』やってくれるイメージです。

少し前までは主架構(柱や大梁などの耐震要素)の計算だけでしたが、二次部材と呼ばれる床スラブや小梁、基礎部材(杭)については対応していませんでしたが、最近はそれらも含めて対応できるようになってきました。

計算条件を設定して、スパンや部材配置・寸法、配筋本数や材料強度、荷重条件を入力すれば、それに基づいて応力計算や断面算定(外力(応力)に対して部材の耐力が満足しているかの確認)、層間変形角・偏心率、剛性率の算定、保有水平耐力計算までやってくれます。

条件が満足していない部分があればそれをエラーメッセージとして出力してくれるので、その内容に対して改善していけば建築基準法に適合した計算書ができあがります。
あくまでも建築基準法に適合するようにできているので、構造設計的にポイントになる部分を網羅してくれるわけではありません。

②計算モデルと実態の関係
現実には柱や梁は幅や高さがありますが、一貫計算での計算モデルは線と点で構成した単純なものになります。単純にしないと計算にとても時間がかかってしまうという理由よりも、構造計算自体が複雑な自然現象を相手に現実と乖離しない上で設計者も理解できる世界を作ってきたことによる結果です。

各線材に柱や梁の剛性情報を持たせたり、実際には物体としての寸法があるので、柱と梁の交点に接する線材の一部を剛域といった剛性が無限な状態に仮定したり、地面に接する点については動かない点に仮定していきます。壁のような面材についても、斜めの線材にしたり、とても剛性の高い1本の線材にすることで表現します。

よく内容を理解せずに一貫計算を使ってしまうと、やたらと細かいところまで忠実に入力してみたり、雑壁をどの程度まで入力してよいかわからないといった質問が出てきます。
実際には上記のような線材モデルをする上でのルールがあるので、それを踏まえてどのようなモデルにしたいのかが先にあって、どのように入力するのがよいかと考える必要があるのですが、どうしても目先の作業が先になりがちです。

ルールの中でできるだけ現実の動きや力の負担に近づけていくことが本来のあるべきモデル化の思考になります。

③直感と一貫計算を繋ぐ
1950年に制定された建築基準法まではシンプルな考え方でしたが、コンピューターの発展もあり1980年の新耐震設計法の導入により計算が複雑になっていきました。そのころから設計者が直感的に捉えられる範疇を超え始めてきました。

その結果として一貫計算の利用(依存)が進展しました。1998年~2000年の法改正により確認申請が民間開放によって誰でも同様な審査ができるように構造基準の判断基準を明確化するために定量的な基準が多く設定されたことも、結果から見ればそれに拍車を掛けたことになります。

現状は自分が理解していない範囲での設計をすることになっている状態です。
冒頭に一貫計算は『ほぼ一通り』やってくれると書きましたが、当然一貫計算の仕組み上、計算にのらない部分や建築基準法に規定されていない部分については自分で別途検討する必要があります。当然、一貫計算は自分からどこが対応外かは言ってくれないので、自分で気づいて検討する必要があります。

参考:構造計算プログラムに使われない付き合い方

だからこそ常に、一貫計算に置いていかれないように、自分の直感との繋げ方、繋がる部分を作っていく必要があります。例えば、変形や反力の位置ならどのように変形して力を支持しているのかはイメージできるので直感でおかしなところがあれば見つけやすいです。あとは歩掛化しやすい、部材一本当たりの軸力やせん断力、各階当たりの平米荷重なども直感と繋げて確認しやすい部分ではあります。

このように直感と繋げることを構造設計者としては絶対に忘れないようにしましょう。
色々と問題点があったとしても現状の業務体系の中で一貫計算を使わないという選択肢にはならないので、最適な付き合い方、人材育成の方法は常に考えていくべき課題になります。

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