建築設計の中で地上部分でどのような構造を採用した場合でも、基礎部分で必ず使用することになるのが鉄筋コンクリート造(RC造)です。
そんなRC造についての大きな特徴を踏まえた、耐震設計時の留意点と各種基準で定められている検討方法の趣旨について書いていきます。
①RCの材料的特徴
コンクリートは、粗骨材、細骨材、セメント、水を混合して作られたものになります。このコンクリート単体では引張力に弱いため、それを補うために引張力に対して強い鉄筋を組み合わせているのがRC造になります。
なぜこの2つの組み合わせになっているかというと、材料としての線膨張係数(温度変化による長さ変化の割合)が同じだからです。それにより気温による膨張や収縮でお互いの材料に悪影響を及ぼしません。仮に線膨張係数が異なった場合には、鉄筋だけ大きく膨張してしてコンクリートが壊れてしまいます。
コンクリートはセメントと水との水和反応によって硬化して強度を発生させているため、時間が経過することによって、温度低下による収縮や水分減少によって必ずひび割れが発生します。
ひび割れの対策はしますが、材料の特性上ひび割れをゼロにすることは不可能で、ひび割れの対策=ひび割れ制御と捉えた方がよいです。総体的に生じるひび割れ幅は決まっているので、それを集中させる(目地を設けるなど)か分散させるかのどちらかになります。
鉄筋を多く入れることでひび割れをなくすのではなく、正確には見えないくらいの小さなひび割れを分散していることになります。
材料の強度に関してはコチラを参考にしてください⇒【構造設計】RC造の材料強度の背景
②壁の多いRC建物は地震に強い
RC造は剛性が高い建物であるため、その剛性を正しく評価することと活用することが重要になります。特にRC壁は剛性がとても高いだけでなく耐力も非常に高い部材になります。
RC造の地震被害の歴史から見ても、壁が多いRC建物は地震被害が少ないことで知られています。
ネットで『志賀マップ』と調べてもらえれば、地震被害と壁率・柱率の関係を示したグラフが出てきます。
これが建築基準法の構造設計ルートで壁や柱の多い建物はルート1として簡易な審査で済むようにしている根拠になります。
参考:構造設計ルートの背景~法適合と耐震性能はイコールではない~
③剛性の変化とその影響を知る
RC部材はひび割れをすることで剛性低下が起こります。弾性設計(一次設計:長期(常時の荷重)・短期(中地震時=震度5程度))の段階でもひび割れは発生します。
一般的に電算では一次設計の中ではひび割れによる剛性低下は考慮していないことがほとんどです。告示594号第2の解説の中では原則初期剛性として計算するようにと記載があります。ただし、短期の場合には弾性範囲内で剛性低下率を考慮してよいことにはなっています。
このような記載ができた背景には、剛性低下率の設定によって都合よく調整する事例が多く見られたからと言われています。
無数にある部材に対して正確に剛性低下を評価するということは現実的には不可能です。電算上で調整をしたからと言って、明確に安全側か危険側かはわかりません。なので、そういった現実と電算にどういった違いがあるのかを把握したうえで、配慮をしていくのが構造設計者の役割になります。
中地震時にここまで変形することはないですが耐震壁は1/350も変形すればせん断剛性は1割程度まで落ちることが実験でわかっています。
剛性低下がない状態で計算をすると耐震壁が多くの力を負担することになるので、耐震壁の検討においては安全側になりますが、その他の部材は小さい力しか負担しないことになってしまうので、危険側の設計になってしまいます。
そのため、告示594号第2三号イで耐震壁の負担率が50%以上の場合には他の部材の検討用の応力を別途割り増して検討するように定めています。
このような検討についてもただ条件に当てはまっているから検討するのではなく、どういった趣旨で設けられた告示なのかを把握して扱うことが重要です。
④部材が力を発揮できるようにする
地震が発生すると建物に運動エネルギーが発生します。そのエネルギーを消費することで建物の揺れは収まり、中地震であれば多少揺れる(弾性範囲内で変形する)ことでエネルギーを消費できます。大地震となると大きく変形させたり、どこかを損傷させることでエネルギーを消費させます。
補足:建築構造設計の世界を知る~自然の未知をどう掴むか
建築基準用や日本建築学会の基準は地震被害を見て、損傷が大きかった箇所の規定を見直してきたという経緯があります。例えば柱梁がせん断破壊していたものをせん断補強筋の規定で耐力を高めて壊れないようにすると、次は主筋の付着割裂破壊や接合部の破壊が生じることになりました。
補足:基準法の変遷から学ぶこと
このことからも柱や梁のような部材単体の耐力式というものはある条件(鉄筋の付着が確保できている、接合部が健全など)を満足することが前提になっていることを理解しておく必要があります。
⑤付着・接合部の必要性
柱や梁のような部材個別の検討はイメージしやすいですが付着や接合部のような検討内容においては、最初はなぜこのような検討が必要になっているのか掴みにくいものです。
どちらも大変形することで問題になる事象です。そのため大地震時の設計を行うことで許容応力度設計(一次設計)は免除できます。
剛性が高いルート1,2では変形が小さいため検討は不要となっていますが、部分的に変形する可能性がある個所は検討する必要があります。
部材を確実にせん断破壊(脆性的な破壊)をさせずに曲げ崩壊(靭性破壊=エネルギー吸収できる)させるためには重要な事項になります。これらの検討も時代の変化、設計の潮流としての材料の高強度化、それに伴う部材の小径化により検討の必要性が出てきたものです。
※付着割裂破壊型の梁は1/100の変形を超えると耐力低下とともにエネルギー消費上好ましくない性質が顕著に表れます。
地震被害、告示の改定、設計の潮流の経緯とセットで考えると、式や告示を暗記していなくても、検討が必要になりそうな箇所が直感的に抽出(変形や崩壊の仕方のイメージ)ができるようになってきます。
⑥力を発揮できる変形が部材によって違ってくる
最後にRC部材の耐力(特に終局耐力)を発揮しているときというのはどういった状態を示しているのかを把握することが重要になります。
例えば柱、梁のようなフレーム部材と耐震壁では最大耐力を発揮できる変形角が異なります。そのため、建物全体の耐力を評価する際には、各部材の最大耐力を単純に足しわせることはできません。
補足:耐震性は耐力と硬さ(剛性)のバランスで考える
建物の崩壊の仕方や力の流れをイメージするためにも、各部材が力を発揮するおおよその変形角を頭に入れておく必要があります。耐震壁のように剛性も耐力も高い部材は小さい変形角で最大耐力(終局状態)に達します。
○変形角の目安
壁せん断ひび割れ:1/5000、壁せん断降伏(極脆性柱破壊点):1/500
壁・柱せん断破壊、壁曲げ降伏:1/250、柱曲げ降伏1/150~
最近では当たり前のようになってきている混構造にする場合の力の流れを考える際には上記のような変形角の概念が必須になってきます。
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